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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)4516号 判決 1991年3月29日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  被告は、別紙目録記載の梁吊金物(以下「被告製品」という。)を製造販売し、若しくは販売のために展示してはならない。

二  被告は、被告製品を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、四〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告において、被告による被告製品の製造販売行為が原告の有する本件判決添付の実用新案公報記載の実用新案権(ただし、登録日は昭和六二年七月七日、登録番号は第一六八七三四七号、以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)及びその仮保護の権利を侵害するものであるとして、その行為の差止め及び損害賠償の支払いを求め、被告において、これを争うとともに、先使用による通常実施権の存在を主張している事案である。

二  争いがない事実

1  原告は、本件実用新案権を有している。

2  被告は、被告製品を業として製造販売している。

三  争点

本件の争点は、被告製品のナット43′の構造が、本件考案のナットの構成に関する要件を充足しているか否かである。すなわち、本件考案におけるナットは、「該クランプのボルトに螺合される雌螺子孔を有する筒状の螺子体」と「前記ボルトに遊嵌される管体」が「螺看」されている構成であるところ、被告製品におけるナット43′は、「吊金物のボルト3に遊嵌される無螺子孔部分47と前記ボルト3に螺合される雌螺子孔部分45とを有する管体43」と「管体41」が一体に「溶着」されている構造であり、この被告製品の構造が本件考案の前記要件を充足するか否かである。この点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

1  原告

本件考案における「螺着」は、本件考案の出願当時の技術水準から「螺着」という方法で「固着」という構成を代表させようとしたものである。また、本件考案においては、二つの管体が固着されていれば、それが「螺着」であろうと「溶着」であろうと、その作用効果に相違をも来さないのであるから、「螺着」は、「固着」を意味するものと考えるべきである。仮に、被告製品の「溶着」という構成が、本件考案の「螺着」という要件を充足しないとしても、被告製品は、本件考案のその余の要件は全て充足し、しかも本件明細書に記載された本件考案の作用効果を全て満たしており、単に本件明細書に記載されていない「環体の着脱が容易である」という作用効果を奏しないという不都合があるにすぎないものであるから、これは、本件考案のいわゆる改悪実施であり、本件考案の技術的範囲に属するものである。

2  被告

本件考案においては、「筒状の螺子体」と「管体」とは螺着され、容易に分離可能な構成となっており、これが大きな特徴になっているが、被告製品においては、荷重がかかる管体43が一体成型され、管体41は環体42の脱落防止作用を有するにすぎず、このことから両者は作用効果において大きな違いがある。

第三  争点に対する判断

一  本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、「該クランプのボルトに螺合される雌螺子孔を有する筒状の螺子体の一側外周が縮径段状とされ、且つ段状部に雄螺子が設けられていると共に該段状部には、前記雄螺子に螺合する雌螺子を有し、且つ、前記ボルトに遊嵌される管体が、螺着されているナット」と記載されていることが認められる。そうすると、本件考案におけるナットは、クランプのボルトが嵌通する部分が、ボルトが螺合する雌螺子孔を有する部分(雌螺子孔部分)と雌螺子孔がなく、ボルトが遊嵌される部分(遊嵌部分)とに分離され、それぞれが別個の部品からなり、この雌螺子孔部分の外周に刻設された雄螺子と遊嵌部分に刻設された雌螺子とが「螺着」されてなる構成であることが明らかである。一方、被告製品におけるナット43は、別紙目録の記載によれば、「ボルト3の遊嵌される無螺子孔部分47と前記ボルトに螺合される雌螺子孔部分45とを有する管体43」というものであって、クランプのボルトの嵌通する部分は、雌螺子孔部分と遊嵌部分が二個の部品に分けられることなく、一体として成型された構成であることが明らかである。したがって、被告製品は、この点において、本件考案の右要件を充足しないものというべきである。

更に、本件考案においては、前記のとおり、クランプのボルトが嵌通する部分の雌螺子孔部分である「筒状の螺子体」と遊嵌部分である「管体」とが「螺着」されていることを要件とするものであるところ、別紙目録の記載によれば、被告製品においては、ナット43は、雌螺子孔部分と遊嵌部分とが一体成型された管体43の外周側に、環体42の脱落防止のために管体41が溶着されている構造であることが認められる。右によれば、本件考案と被告製品では「螺着」と「溶着」という点において相違するものであり(原告は、本件明細書中に固着手段として螺着と溶着とをそれぞれ別個の固着方法としてに使い分けていることが明らかであり、これを同意義のものと解することはできない。)、仮に「螺着」と「溶着」とを同意義に解することができるとしても、被告製品において「溶着」されているのは、本件考案における筒状の螺子体と管体の双方の性質を併せ持つ管体43と、環体42の脱落防止のための管体41なのであって、本件考案のように雌螺子孔部分である筒状の螺子体と遊嵌部分である管体ではないのであるから、この点において、両者の技術的思想は異なるものであるというほかはない。

以上のとおり、被告製品は、その余の構成要件について検討するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属さない。

二  以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

目録

第一図は、斜視図で示した梁吊金物、第二図は、同要部部品を断面で示した梁吊金物であって、

右梁吊金物は、板状鉄材1の略中央の面に穴が開設され、この穴にボルト3が挿入されて頭部分3aを鉄材1に溶着し、さらにこの頭部分3aを跨ぐように倒U字状の桿2を前記板状鉄材1に貫設されている一対の孔に該桿2の両端を嵌挿溶着して立設した吊金物と、

この吊金物のボルト3の遊嵌される無螺子孔部分47と前記ボルト3に螺合される雌螺子孔部分45とを有する管体43の雌螺子孔部分45を有する一側外周が縮径段状部43cとされ、この縮径段状部43cには管体41が嵌着されて、前記管体43の縮径段状部に一体に溶着されているナット43′と、この管体43と前記管体41との間の縮径の段状部43bに回動自在に嵌着されている環体42とからなっており、この環体42の周面に設けられたフック6と前記板状鉄材1に設けられたフック6とがワイヤー等の索条5で連結されているとともに、前記ナット43′の管体43の縮径段状部43cでない側が六角形状部43aとされ、この六角形状部43aの相対向する二つの面に穴46、46が設けられている梁吊金物。

なお、第三図は、梁吊金物の使用状態を示し、第四図は、同梁吊金物の使用状態を断面で示した。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

<10>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 昭61-43828

<51>Int.   識別記号 庁内整理番号 <24><44>公告 昭和61年(1986)12月10日

B 66 C 1/66 B-8408-3F

1/64 C-8408-3F

(全4頁)

<54>考案の名称 梁吊上げ用クランプ

<21>実願 昭57-45668 <65>公開 昭58-151187

<22>出願 昭57(1982)4月1日 <43>昭58(1983)10月11日

<72>考案者 池田則弘 東京都荒川区東尾久4-9-5

<71>出願人 有限会社協和ロープ 東京都荒川区東尾久4-9-5

<74>代理人 弁理士 桑原稔

審査官 秋田修

<56>参考文献 実開 昭55-17006(JP、U) 実公 昭55-38942(JP、Y2)

<57>実用新案登録請求の範囲

鈑体の一側面に該鈑体に開穿された孔に嵌合熔看されてなる倒U字状をなす桿が立設され、且つこの取付倒U字桿の略中央に開設された孔より鈑体の他側面に向けてボルトが嵌挿溶着されているクランプと、

該クランプのボルトに螺合される雌螺子孔を有する筒状の螺子体の一側外周が縮径段状とされ、且つ段状部に雄螺子が設けられていると共に該段状部には、前記雄螺子に螺合する雄螺子を有し、且つ前記ボルトに 嵌される管体が螺着されているナツトと、

該管体と前記筒状の螺子体との間の前記縮径段部に回動自在に嵌着されている環体とよりなり、

該環体の周面に設けられたフツクと前記鈑体に設けられたフツクとがワイヤー等の索条で連結されていることを特徴とする梁吊上げ用クランプ。考案の詳細な説明

本考案は構築物に於ける梁用鋼材の水平吊上げに供される極めて斬新的且つ実効的なクランプの開示に係わるものである。

而して、従前に於けるこの種のクランプは、ナツトを別途用意しなくてはならず、クランプを梁用鋼材等に取付ける作業時に於いてナツトの落下を誘起し就中高所に於ける作業時には、非常に危険性を伴つたものであつた。

又、鈑に突設熔着した螺子桿の全周面に雄螺子を刻設してあるため、吊上げ時に梁用鋼材の揺れの為、螺子山部が損傷されるため次い薄い鈑体等の吊上げを行なうに際して緊締し得ない不都合が発生したものであつた。

本考案は斯かる従前例に於ける不都合に み特に案出されたものであつて、予期される主たる目的の一つは、クランプにナツトを常備せしめるものとし、作業時に於いて誘起されがちなナツトの紛失、ナツトの落下を有効に防止するようにした点におかれたものである。

次いで、本考案に於いて予期される他の主たる目的の一つは、クランプに於けるボルト状桿の螺子山の損傷を極力防止し、永年使用に耐え得るようにされ、もつて安全性の確保をするようにした点に置かれたものである。

更に本考案に於いて予期される他の主たる目的の一つは、梁用鋼材に挿通するクランプに於いて突設されたボルト状桿の螺子山部の省略をもつて、桿が太い径のものとし吊上げ強度を向上せしめるようにした点におかれたものである。

而して本考案は、かゝる諸特性の適切且つ合目的々な奏効を期すべく其の構成の要旨を鈑体の一側面に該鈑体に開穿された孔に嵌合熔着するようにしてなる倒U字状をなす桿を立設せしめるようになすと共にこの取付倒U字桿の略中央に開穿された孔より鈑体の他側面に向けてボルト状の桿を嵌挿熔着した構成に於いて該ボルト状の桿を嵌通孔内壁の―側半部に雌螺子を刻設し、他側半部を平滑な拡径孔としたナツトの外周面に設けた周凹

溝内に回動自在に環体を嵌着し、該環体の周面に設けたフツクと、前記鈑体に設けたフツクをワイヤー等の索条で連結せしめた点に置くと共に斯かる構成の要旨に附随した相当の設計変更を予定したものである。

以下、本考案の詳細を図面に示す典型的な一実施例について説明するに、方形その他の任意の形状よりなる鈑1に対し孔1a~1a並びに孔1bを開穿し、該孔1a,1bに対し別途用意される倒U字状をなす桿2並びにボルト状の桿3を嵌挿止着せしめるようにし、該鈑1の一側端部にワイヤー5を 着するためのフツク6を設けたものである。尚、該桿3は自由端方向より鈑1部方向に向けて桿3の長さの半分程度まで雄螺子部としたものである。

而して桿2の取付に於いては孔1a~1aに嵌挿された該桿2の挿通基方位置の周面に於いて先ず熔着し、次いで挿通端面方向より熔接するようになすと共にこの熔接端面を研摩して平滑面に仕上げるようにしたものである。次いで桿3は其の頭3aを鈑1面に当接する如く孔1bに対し嵌挿されたものであり、この当接位置に於いて熔着するようにしたものである。

更に4はナツトであつて、該桿3に螺合する雌螺子を刻設した内周面をもつ螺子体4aの一側開口端より周回段設せしめ、該一側開口端部段設外周面開口端方向から段部方向に向けて該一側開口端部段設外周面の略半分の長さに亘つて雄螺子を刻設せしめ、又該螺子体4aの該雄螺子部に螺合するように内周面を一端開口部より周回段設し、該段設された内周面に雌螺子を刻設した管体4bを回動自在環4cを介して螺着してなるものである。尚、該管体4bの内周の径は前記桿3径よりも拡径としたものである。

而して該環4cの外周面にフツク6を設け、前記鈑1に設けたフツク6と適宜長さのワイヤー5をもつて 着せしめたものである。

上記ナツト4は、他に回動自在環4cを有し且つ六角ナツト状のもの、無垢状のもの等を予定されたものである。

本考案は叙上に於ける特長ある構成、就中鈑体の一側面に該鈑体に開穿された孔に嵌合熔着するようにしてなる倒U字状をなす桿を立設せしめるようになすと共にこの取付倒U字桿の略中央に開穿された孔より鈑体の他側面に向けてボルト状の桿を嵌挿熔着した構成に於いて該ボルト状の桿の挿通孔内壁の一側半部に雌螺子を刻設し、他側半部を平滑な拡径孔としたナツトの外周面に設けた周凹溝内に回動自在に環を嵌着し、該環の外周面に設けたフツクと、前記鈑体に設けたフツクをワイヤー等の索条で連結せしめたことによつて前記せる従前例の欠陥を有効に是正し得たものであつて、以下の具体的な効果の奏効を期待されたものである。

即ち、本考案に於いては、ワイヤー5等の索条体をもつてクランプに於ける鈑部とナツト部を連結し、運搬、取付作業時のナツト紛失、落下等の危惧を無からしめたものである。

次いで、本考案に於いては、梁材等の吊上げ時の梁材の揺動等によつてボルト状の桿3の鈑1に対する取付基部の螺子山損傷が誘起され得ないようにし、平滑な外周面としたことにより多回数の使用を約束し得るものである。

更に、本考案に於いては、ナツト4に於ける管体4bを一体的に設けたことによつて桿3の取付基部の螺子山の刻設を省略し得るものとし前記せる如く多回数使用に耐え得るクランプとしたものである。

次いで又、本考案に於いては、ナツト4を比較的太い径となし手あるいはパイプレンチもしくはスパナ等で締め得るようにし、作業上好都合としたものである。

而して又、本考案に於いては、鋼材の厚さに応じてナツトの嵌合方向を変えることができるようにし、多種の鋼材の吊上げに適用し得るようにしたものである。

又、ナツトに環体を回動自在に遊嵌したことにより、ナツトをボルトに螺合する際にワイヤー等の索条の捩れが生じず、安定した作業性を約束し得ると共に、索条の捩り戻しによる危険を回避し得るようにしたものである。

叙上に於ける通り本考案は、構築物に於ける梁用鋼材の水平吊上げに供される極めて斬新的且つ実効的なクランプの提供をその目的としたものである。

図面の簡単な説明

第1図は、本考案の典型的な一実施例を示す斜視図、第2図は同断面図、第3図は同使用状態を

示す斜視図、第4図は同要部断面図である。

尚、図中1……鈑、2……桿、3……桿、4……ナツト、5……ワイヤー、6……フツク、7……梁用鋼材を示したものである。

<省略>

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